無個性こそ個性?アメリカで愛されるジャパニーズ・サルーン 2002年式 カリン アステロープ GZ
カリン・アステロープGZ
SUVの台頭にあたり、国内を始めようとする各自動車市場では「SUV売れない」と言われようになってしまう。その市場の動きに伴ってヴァピッドは国内におけるセダン、コンパクトカー市場から撤退し、デクラスも引き続きこうとしている。
以前、毎年コンスタントに売れ、国内の自動車販売台数ランキングに数十年トップ10入りし続けているセダンが存在し、その車はこれアメリカにおけるセダン市場の王座に20年以上君臨している。はカリン・アステロープである。
この日本製セダンがいかにも20年以上も国内で最も売れているセダンとなっているのか、その驚異的な記録の歩みとなった2002年後期アステロープに試乗し、考えていきたいと思う。
スペック
全長:4805mm
全幅:1795mm
全高:1480mm
ホイールベース:2720mm
車両重量:1530kg
エンジン:3.0L V6 DOHC
排気量:2995cc
最高出力:192hp/5300rpm
最大トルク:290Nm/4400rpm
トランスミッション:4AT
今回試乗するのはカリン製3.0L V6エンジンを搭載したグレードであるGZだ。正直言って個性というものがあまりなく、あまりにも無難で没個性である。たとえスポーティーさやスタイリッシュさは少なく斬新さに欠ける。
内装も非常に簡素である。 この車はカリンの高級車ブランドであるエンペラーのロークスのベースとなっており、ロークスと比較するととにかく車感が強い。
しっかりと運転席側のみパワーシートとなっており、視聴横にはダイヤル式のランバーサポートがございます。またこの時代の日本車にはアメリカ市場のために作られた車であるため、我々ウエスタン人が乗っても狭さを感じない。 実際、敷地の果てと全幅は同時期のオベイ・テイルゲイターに敵対する。
後席も痛くなく広い。左右のドア間は約150cmもあり、膝前、頭上ともスペースは十分である。サイドウィンドウがわずかに内側に倒れ込むが、かなり大きな窓による開放感の方が強くなった日本車特有の設備の多さは健在で、フロアコンソール後端には後席用エアコン吹き出し口があり、ISOFIX対応チャイルドシート用固定バーのみ、シートベルトが首にあっても大丈夫高いさを調整する「チャイルドコンフォートガイド」がいっぱい。
そして特筆すべきはこのトランクである。 リアゲート開いた瞬間、私の口について出た言葉は「広い」であった。 上下方向は標準的なミドルサイズセダンの広さであるが、前後方向「ラージセダンも凌ぐ約587リッター(VDA法)の大容量」という謳い文句は嘘ではない。
搭載される3.0L V6エンジンはロークスにも搭載されるカリンご自慢のミドルクラス車用エンジンである。192馬力を発揮するこのエンジンの魅力は何と言ってもカリンお得意の低燃費である。はこのクラスのV6としては低燃費ナリッター11キロを叩き出す。
さて、実際に試乗していく。 乗り出すとわかるのはこの3.0L V6エンジンの優等生ぶりだ。 静かに、かつ中速域でトルクがあるエンジン。 V6らしい歓声とともにエンジンが上がる。スロットルを踏み込むバーレッドゾーン手前の6000回転までスムーズに回り切る。4速オートマチックのマナーも完璧でトルク重視のエンジンとの相性もいい。
乗り心地に関しても、十分に緩やかで快適。 電子制御のサスペンションの設定はやや気になるが、ハンドリングは全く素直で、従順だ。 正直私のような車好きが楽しめる車ではないと考えていたが、それは間違っていたのだ。
この車がなぜアメリカ国民に永く愛されるのか、今回の試乗全体を掴んだ気がする。スタイリングは没個性的、エンジンは優秀だが特筆すべき点はなく、車自体の個性はあまりない。スポーツもよくできた優等生だったのでどうしても顔と名前が思い浮かんだ同級生という感じだ。
しかしよく考えてほしい。車を買う大多数の人は車に趣味など求めていないのだ。 カリンがアメリカにアステロープを上陸させた1980年代、日本の自動車産業が衰退した時期だった。オイルショックや排ガス規制強化により、国産車はそれまでのハイパワー、フルサイズ主義から変革を強くされ、かつ当時のアメリカ自動車産業は経営難、商品開発の失敗などにあえいでおり、小型で性能のいい日本車やドイツ車にシェアを奪われていた。 軽くて燃費が良く、排ガスもきれい、装備も良くて壊れない。 そんなアステロープは我々の目には驚異的なものに映ったものだった。無個性。だけど経済性も高いいい車。 そんな多くのアメリカ国民のニーズを満たした車こそがこのアステロープだったのだ。
ここで余談だが、中東では王族の間でこの型のアステロープを使い、広い直線道路上で、左右交流で車をドリフトさせる高速タフィートという行為が人気らしい。
インポンテが放った、若者に向けた最後の矢。 2006年式 インポンテ DF8-90
インポンテ DF8-90
インポンテ。この名前にももはや懐かしさすら感じてしまう人も少なくは無いのではないだろうか。1926年に創立され、デクラスやマンモスと北米最大の自動車グループを構成しており、若者向けの安価でスポーティーな車を製造していた世界的にも有名なメーカーだった。しかし2008年から始まった不況によるデクラスの経営不振によって、2010年をもってマンモス社の自動車部門とともに消滅してしまった。
インポンテ社の車と言えば廉価で格好よく、スポーティー。若者向けのメーカーとして位置づけられ、1970年代には名車であるフェニックスという車を発表した。
フェニックスはそのスポーティーな流線形のフォルムが他のマッスルカーとは一線を画しており、ヨーロピアンテイストとアメリカらしい無骨さが織り交じったこの車は空前の大ヒットを飛ばし、インポンテの名を世界に轟かせた。
インポンテの勢いは止まらず、ナイトシェード、デュークスなどのヒット車を輩出。しかしその中でもフェニックスは別格で、モデル末期でもコンスタントに売れ続けた。
そんなフェニックスの後継となったルイナーはとある特撮ドラマにおいて改造したモデルが登場。世界中で人気を博し、インポンテというメーカーの発展に大きく貢献した。
世界的ヒットを飛ばしたルイナーであったが、モデルチェンジ後は日本車に購買層である廉価でスポーティーな車を求める若者を奪われただけでなく、経営不振による性能低下、没個性的なデザインと、かつての栄光が感じられないものとなってしまった。
そんなルイナーを廃止し、日本車に奪われた購買層を取り戻すために開発、販売がなされたのが今回紹介する、DF8-90である。
スペック
全長:4800mm
全幅:1800mm
全高:1450mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1500kg
エンジン:3.9L V6
排気量:3900cc
最高出力:240hp/5500rpm
最大トルク:325N・m/1500‐5500rpm
トランスミッション:6MT
流線形のフォルムはこの車が正当なフェニックスの後継車であることを示しており、同年代の国産車の中でも最も近代的で洗練されたデザインと言える。ホイールベースが長いため、こういったデザインができるのだろう。4ドアだがルーフの低いクーペスタイルはスポーティーさを醸し出す。
しかし内装はいくら廉価ブランドの車両とはいえ非常に安っぽく粗末だ。対抗となる同価格帯の日本車より低水準かつ低い質感。日本車に勝てそうなポイントで勝つことができていないのは非常に残念だ。低いルーフラインはスタイリングとしては素晴らしいものの実用性はかなり低く、狭苦しさを覚える。特に後部座席では頭がルーフに当たりそうになる。これでは日本車に勝つことはできないだろう。
エンジンはデクラス製3.9L V6エンジン。240馬力を誇りまさにアメリカンマッスルクーペの伝統的エンジンだ。しかしながら、デクラス・プレミアやメリットと同じエンジンであり、コスト削減を図ったものなのだろうと考えられる。さて、このエンジンはどのような楽しみを私たちに与えてくれるのだろうか。フェニックスやルイナーのような少々荒くとも心の弾む走りをしてくれるのだろうか。
エンジンを始動すると古き良きV6サウンドが響き、走り出すとV6のしっかりとしたパワーが感じられる。しかし、走り出して10分後、私は様々な問題点に気づいた。
まずサスペンションがあまりに硬すぎる。市街地区間、特にロスサントス西部の舗装状態の悪いところでは凄まじい衝撃が座席を伝い私の腰に響く。スポーティーなセッティングがなされているからとはいえ、この車を2時間運転すると18歳でも椎間板ヘルニア患者になるだろう。
次にシフトのセッティングだ。私は70年代のトラックでも運転しているのか、と錯覚してしまうほどシフトが固い。特に1速から2速へのギアチェンジが大変で、ゴリラ並みの腕力がなければスムーズにギアチェンジできないだろう。
他にも風切り音はV6エンジンのサウンドすらかき消してしまうほどうるさく、小回りができないため、ジョービルトと同じように回らなければならない。
ただ高速に入った途端、それらの欠点はすべて打ち消された。ガツンと来る強烈な加速とアメリカンマッスル仕込みのV6エンジンの生み出すパワーは、これまでのすべてを忘れさせるほどの爽快感をもたらしてくれる。インポンテ伝統の少々荒いが心の弾む走りはこの車にも受け継がれていた。日本車にはないこの国産車独特の走りをカリン・アステロープより安い価格で手に入れられるということに驚きを禁じ得ない。
国産車といえば、燃費の悪さが日本車と比較した際の大きな欠点として挙げられるが、DF8-90の燃費はリッター18kmを誇り、これはインポンテ社史上最高の燃費だ。
これまで乗った国産車の中でもトップクラスで、試乗中の給油もほとんど必要がなかった。この経済性の良さは、収入の少ない学生にとっては非常にありがたいのではないだろうか。
この車はまさにインポンテが若者に向けて放った最後の矢だった。矢のように鋭い速さと格好いいフォルム、そして手ごろな価格はまさに若者のハートを射止めるには十分すぎるほどだった。しかしDF8-90はインポンテ社の想定していた販売台数を下回り、結局デクラス社の経営不振によりインポンテ社は消滅してしまう。
この車の顧客層を奪ったのは、ライバルとしていた日本車でなく、皮肉にも同じ国産車であるヴァピッド社のドミネーターだった。
放たれたインポンテの輝かしい歴史はこの車とともに潰え、二度と復活することは無い。放たれた矢は若者の心を射止めることなく、インポンテというブランドごと、我々が一生届かないところまで飛んで行ってしまったのだ。
FF車世界最速へ…日出ずる国の生み出した究極のホットハッチ 2017年式 ディンカ ブリスタ・スゴイ
ディンカ ブリスタ・スゴイ
私がイギリスに住んでいた高校生の頃、私を含む車好きの若者たちは皆ホットハッチと呼ばれるスポーツチューンのなされたハッチバック車に熱狂していた。高い走行性能と実用性を備え、免許を取得したばかりの学生でも手が届くような低価格というまさに最強のスポーツカー。70年代にBF クラブから始まったホットハッチの流れは瞬く間に全世界へと広まり、その波は地球の裏側にある日出ずる国、日本にも到達した。
当時、日本では小型ハッチバックが大衆車として多く販売されており、カリン、アニス、マイバツの三大メーカーがしのぎを削っていた。そんな中ディンカはアーバンターボという車を発表。1.2Lターボチャージャー付で110psを出すアーバンターボは三強を打ち倒し、絶大な人気を誇る車となった。その後もディンカの躍進は止まらず、ブリスタコンパクトはFFのライトウェイトスポーツとして北米で大ヒットした。
そしてディンカの一番の功績と言えば当時国民車ともいわれるほどヒットしていたブリスタに1.6L 直4DOHC 可変バルブタイミング機構(通称VTES)を搭載したブリスタ・カンジョを発表したことだ。この車は日本専売であったものの海外にも多く並行輸入され今現在もファンが多い。
その後もディンカはブリスタのホットモデルを発表し続けていたものの、世界的不況と排ガス規制により2010年モデルからホットハッチモデルが消滅してしまった。
2010年発売の9代目ブリスタは実用的な低価格ハッチバックとして商業的には大成功を修めたものの、私たち車好きにとってスポーツモデルが設定されていないブリスタは面白みの欠片もないクルマとなってしまった。ディンカから車に対する熱い想いは失われたと思った。
しかし、ディンカはホットハッチへかける情熱を失ってしまったわけでは無かった。2016年、パリにおいて発表されたブリスタの新たなスポーツモデル、スゴイはその名の通り、『凄い』車だった。
2017年4月、北ドイツの名門コースニュルブルクリンクにおいてタイムアタックが実施された。当時FF市販車で最速だったBF クラブの最速記録を3秒以上も上回り、世界最速の市販FF車の称号を獲得した。(現在はボルドー アニーがその記録を上回っている)
そんな世界最速のFF車(”元”ではあるが)の試乗を行いたいと思う。
スペック
全長:4560mm
全幅:1875mm
全高:1435mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1390kg
エンジン:2.0L 直4 DOHCターボ VTES
排気量:2000cc
最高出力:320hp/6500rpm
最大トルク:40.8kgf・m/2500‐4500rpm
トランスミッション:6MT
ロー&ワイドなスタイリングは非常に特徴的でアグレッシブさを感じる。ただ昨今の日本車全てにおいて言えるのだが、ゴテゴテと派手さが行き過ぎているデザインとも感じられる。日本ではロボットのアニメーション作品が流行っているのだと聞くが、それが車のデザインにまで影響してきているのだろうか。ボンネットには大きなエアベント、大開口のフロントバンパー、2本出しセンターマフラー、リアにはディフューザー。そして極めつけは巨大なリアウィングだ。アニス エレジーRH8やカリン クルマもそうだがどうして日本車の高性能スポーツカーには巨大なウィングが装着されるのであろうか…
そんな派手な外装とは対照的に、内装は非常にすっきりかつスポーティーになっている。日本車特有のチープ感は感じられるが、ディレタンテやピナクルよりずっと上質だ。リアシートも広々としていて快適で、実用性がとても高い。さらに日本車特有の収納スペースの多さも実用性のプラスポイントとなっている。自動販売機でついついeコーラを40本買ったとしても車内の収納スペースに全て収まるだろう。
エンジンは2.0L 直4 DOHCターボ VTES。ディンカ伝統のVTESエンジンは健在だ。
VTESを知らない車好きはいないだろうが、一応説明を挟むと、ディンカが開発した4サイクルエンジン用の可変バルブタイミング機構のことで、低回転から高回転までそれに見合うバルブ制御が行える高度な技術であり、さらに力強い加速とレスポンスの良さ、そして素晴らしい音を響かせる車好きを虜にするエンジンだ。
ターボが搭載されることで高回転域で奏でられる自然吸気特有の音が失われてしまっているのは少し物寂しいものだが、ターボ化により最高出力は320psに達し、性能は大幅に向上した。
スタータースイッチを押し、エンジンをかける。野太いエキゾーストを轟かせて始動したエンジンはそれだけでしっかりとしたチューニングが施されていることが分かる。
スポーツシートのホールド性は抜群だ。しかし低速域ではあまりにも乗り心地が固くクラブやフラッシュには快適性で遠く及ばない。しかしそんな低速域での快適性の低さが気にならないほどに高速域での走りは素晴らしい。
高速域ではまるで地面に吸い付いているかのように走る。試乗した日は大雨であったが、こんな日にコメットやトラクスを全開走行できるのは頭のねじが数本抜け落ちた人間か自殺志願者のみだ。しかしスゴイはこの土砂降りの中でも全開で走行ができる。オーバースピード気味でコーナーに突っ込んでも挙動を全く崩すことなくきれいに曲がる。理想的なコーナリングだ。それだけでディンカの技術者は最高の仕事をしてくれたことが分かる。特にマニュアルトランスミッションは史上最高と言ってもいいほどで、ヒール&トゥいらずで回転を合わせてくれるレブマッチ制御を作り上げたことはもはや変態の所業だ。そして何よりもこの車は、速い。速いのだ。
これまでのスポーツモードからR+モードに切り替えるとカリカリのサーキット仕様にばけ、より繊細なステアリング捌きを要求される。流石に恐怖感があるのですぐに切り替えるが、FF車最速の理由を一瞬だけでも感じ取ることができた。この走りにはまさにワサビのような鋭さがある。カタログ値では272km/hも出せるそうだ。VTES特有の力強い加速とクイックに曲がるコーナリング性能はベストマッチ。ニュルで最速をたたき出すのも頷ける。
最速のホットハッチ。その記録は塗り替えられてしまっているが、この車は素晴らしい車である。この極上の速さはまさにレーシングカーだ。
しかしこれはスポーツカーというには少し疑問が残ってしまう。スポーツカーに必要なのはマシンをコントロールする楽しみなのではないだろうか。実際クラブやフラッシュには操る楽しさがある。記録を塗り替えたアリーはその操る楽しさを上手くコーナリングに落とし込み、少し滑らせることで向きを変え、アクセルとステアリングを連携させて走る。アリーが記録を更新できたのはその点にあるかもしれない。
スゴイは名の通り凄い車だ。速く、よく曲がり、よく走る。そして実用性も非常に高い。ホットハッチとしてこれほど素晴らしいものは無いだろう。しかしその”凄い”は私たち車好きが求めるものなのだろうか。私たちが求める”凄い”とディンカの考えた”凄い”は少しばかり異なっているのかもしれない。
官能的なイタリアの情熱。進化するフラッグシップ。2013年式 ランパダーティ チンクエミーラ
ランパダーティ チンクエミーラ
ランパダーティ。その響きはこれまで多くの車好きを虜にしてきた。1957年に登場したカスコはそのボディの美しさからイタリアを中心に欧州で大ヒット。続くミッチェリGTは1966年から4年間ヨーロッパツーリングカー選手権のチャンピオンとなり世界にランパダーティの名を轟かせた。
ランパダーティはラリーの世界にも進出し、会社の威信を賭けて作られたトロポスラリーはWRCのタイトルを3年連続獲得。近年でもラリークロス大会に個人所有のトロポスラリーが出走し、好成績を残している。
そんな数々の伝説を残してきたランパダーティのフラッグシップを2003年より長年務めてきたのがフェロンである。
美麗なフォルムの4ドアサルーンにグロッティ製V8エンジンを搭載したこの車は官能的なサウンドと落ち着いた大人の走りで国内の上流階級を虜にした。2005年の国内での輸入車高級セダンではベネファクター・シャフター、ウーバーマフト・オラクルに次ぐ売れ行きを記録。ランパダーティはアメリカでの売れ行きを大きく伸ばし、ロスサントスでもフェロンは日常的に見られるようになった。
そんなアメリカにおいて大ヒットをマークしたフェロンであるが、10年モデルチェンジが行われず、2010年代に入るとフルモデルチェンジを果たしたシャフターやオラクルのみならず、オベイ・テイルゲイターなどの新型車には敵わず販売が徐々に落ち込んでいた。そこでランパダーティは2013年、多くの新型車を発表。新世代の幕開けと称し新生ランパダーティの第一弾として販売が開始されたのがチンクエミーラであった。
スペック
全長:5262mm
全幅:1948mm
全高:1481mm
ホイールベース:3171mm
車両重量:2060kg
エンジン:3.8L V8 DOHC 32バルブ ツインターボ
排気量:3798cc
最高出力:530hp/6800rpm
最大トルク:650Nm/2000rpm
トランスミッション:8AT
私がこの車と対面したとき、一目で心を奪われてしまった。それほどまでにこの車のボディーラインは魅力的で、妖艶で、本当に美しい。
これまでヴィセリスやカスコを見たり、試乗したりしてきた私ではあるが、この車の美しさはこれまでのランパダーティ車の中でも群を抜いて素晴らしいと思う。気品に満ちたプロポーションと情熱を感じるボディーラインはまさにランパダーティであり、フラッグシップとして相応しいものに仕上がっている。
ただインテリアは他の高級セダンと異なり雑さが否めない。この点はフェロンから変わっておらず、外装の美しさが素晴らしいだけに残念なポイントでもある。ただ今回試乗したのは中級グレードのGTSであり、スクードという最高グレードでは本革レザーシートやカーボンファイバー仕立てのセンターコンソールなど内装のレベルが格段にアップしているそうだ。
内装の残念さは置いておくとして筆者が大いに驚いたのは広さであった。それもそのはず、先代のフェロンより幅が50㎜、全長も100㎜拡大しており室内空間は広くなっている。
後部座席も広々としており、運転手付きの要人が使用することも考慮しているのであろうかと考えられる。実際リバティーシティにあるイタリア大使館の公用車はフェロンからチンクエミーラに変更されたのが先日判明しており、ショーファードリブンとしても活躍しているようだ。
さて気になるのがエンジンだ。一時期グロッティの傘下にあったランパダーティはそれ以来グロッティと業務提携を結び、フェロンにもグロッティ・ツーリスモと同型のエンジンが搭載されていたが、チンクエミーラにもその流れは受け継がれている。今回のGTSにはグロッティが開発した3.8L V8 DOHC32バルブツインターボエンジンが搭載されており、同時期に発表されたカルボニツァーレと同じエンジンを搭載している。最低グレードが搭載する3.0L V6 DOHCツインターボエンジンもグロッティとの共同開発で、いかにランパダーティとグロッティの関係が深いかが分かる。
さて、待ち兼ねた試乗の時間だ。始動スイッチを入れると迫力のあるV8サウンドを轟かせる。が、そのエンジン音は案外落ち着いており、私は少し拍子抜けしてしまった。フェロンの目覚めの咆哮と比べると静かであるが、それもそのはずでチンクエミーラではダウンサイジングが行われており、燃費の面を考えるとフェロンのような快音はあまり出せない。また車内の静謐性がフェロンと比べて格段に向上していることも理由の一つだろう。少し物寂しくもあるが、今回のエンジン音でも同価格帯の車の中で最も迫力ある音だと思う。
まずは街中を流す。低速域ではフェロンと同様若干の落ち着きのなさを感じる。イタリア車の愛嬌と言ってしまえばそれまでだが、シャフターやオラクルに対抗するのであればこの点の改善は今後必要となってくるだろう。しかしスピードを増すごとに車は徐々に安定してくる。ショーファードリブンとしての使用を想定しているもののやはり本質はドライバーズカーであり、操る楽しさを感じさせる。
高速に乗るとその楽しさはますます増した。直噴V8ツインターボの生み出す強烈なパワーは往年のランパダーティ車にある楽しさをダイレクトに伝えてくれる。そしてとにかく速い。車重が2トン以上もあるとは思えないほど恐ろしいスピードで加速する。
1800回転を過ぎたあたりから仰け反るような加速を見せ、ランパダーティによると0~100㎞/hで5秒を切るらしい。アクセルを踏み込むとさっきまで並んで走っていたアセアが一瞬の内に遥か後方へと消え去ってしまった。
電子制御の8速ATは回転数に合わせ滑らかな加速をしてくれる。勿論運転を楽しむ人のためにパドルシフトもある。しかしシフトダウンをすると少々セッティングの雑さが気になってしまうのは残念な点である。
郊外の方へ走り出すとLS市内では快晴だった天気が一変し大雨が降りだし、私はそこで少々不安を感じていた。それはフェロンではハイパワーFR特有のウェット状態でトラクションが不安定になってしまう問題が発生していたからだった。しかし、それは杞憂であった。大雨の中でもタイヤはしっかり地面を掴み、トラクションの不安感も感じられない。
この雨の中スポーツモードを起動する。一昔前のランパダーティ製スポーツセダンなら後輪が空転してしまうであろうが、この車はドライと同じ感覚で操縦ができる。ランパダーティの進化をひしひしと感じたテストドライブであった。
金持ちが乗る高級車といえばドイツ車という風潮が世界的に見てもあるが、情熱とロマンがたっぷり詰まったこのチンクエミーラはそれらの風潮を打ち消すことができるだろうか。
私の出す答えは否だ。ショーファードリブンとしては欠点が多く、乗り心地ではベネファクターが、ドライバーズカーとしてもトラクションや走る楽しさを感じられるのはウーバーマフトがやはり勝っている。しかしこの車にしかない素晴らしいポイントがある。それはデザインだ。結局のところこの車のデザインに一目惚れしたならベネファクターもウーバーマフトも比較対象にはならない。いつの間にか契約書にサインをしているだろう。私はもうサインをしている。
アメリカン魂の結集。往年のマッスルカーここに復活 2015年式 ブラヴァド バッファローSTX
ブラヴァド バッファローSTX
アメ車といえば何を思い起こすだろうか?ピックアップ?それとも大型SUV?いや、多くの人が出すであろう答えは「マッスルカー」である。
今回紹介するのはマッスルカー全盛期を牽引した車種の一つであり、現在のマッスルカー市場をホットなものにしている一番の車、ブラヴァド バッファローだ。
スペック
全長:5084mm
全幅:1905mm
全高:1485mm
ホイールベース:3054mm
車両重量:2000kg
エンジン:6.4L V8 OHVエンジン
排気量:6400cc
最高出力:485hp/6000rpm
最大トルク:475lb-ft/4200rpm
トランスミッション:8AT
試乗インプレッションに入る前に、まずバッファローの生い立ちとその歴史を振り返っていこうと思う。
1955年、ヴァピッドが発表したドミネーターは多くの若者の心を掴んだ。勿論この状況を見た国内の他メーカーは追従するようにマッスルカーを続々と発売した。デクラス、インポンテ、クラシック、シャイスター…そしてブラヴァドもだ。
1964年、ブラヴァドはオートショーにてバッファローのコンセプトを発表する。翌年にはより市販モデルに近いバッファローⅡを発表。その後販売店の要望に合わせ調整を行い、1966年、初代バッファローは発表された。全グレードでV8エンジンを搭載し、更に最高グレードであったA/Cは7L 450psという当時最大級のスペックを誇った。バッファローは当時の若者たちを瞬く間に魅了した。
しかし1970年にオイルショックを受け、年を経るごとに徐々にパワーダウンが行われた。続く2代目では、2ドアハードトップのFRであった先代から大きく様変わりし、FFの3ドアハッチバックとなってしまった。その頃に高品質かつ低価格の日本車が上陸し、国産車の売れ行きは大きく悪化した。そして1987年、バッファローは販売を終了してしまう。同時期に多くのマッスルカーが姿を消していった。
だが光はまだ潰えていなかった。2005年、ヴァピッド社が打ち出した「リビングレジェンド戦略」によりマッスルカー最盛期の1960年代と同様のテイストを残したデザインを纏ったドミネーターが発売。それに続くようにしてブラヴァドも新型バッファローを同年に発売した。
3代目バッファローは当時のマッスルカー復古の流れによりバッファローは大きく売り上げを伸ばし、当時経営危機にあったブラヴァド社をガントレット、バイソンとともに支え、多くの特別仕様車も作られた。
そして2011年に4代目が発表される。このモデルに設定されたSはスーパーチャージャー付きV8エンジンで470馬力を誇り、4ドアサルーンとしては規格外の車であった
さて、前置きはここまでにして今回試乗する2015年式バッファローSXTについて話そうと思う。
2015年実施されたビッグマイナーチェンジはほぼモデルチェンジといっても過言ではないほどの大規模なものであり、大規模なフェイスリフトが敢行された。グレードもSはSTXに名を変え485psにパワーアップした。今回はこのSTXに試乗していきたいと思う。
まずはエクステリアを見ていこう。
69年式バッファローのエクステリアをモチーフにデザインしたとデザイナーは語っており、その年代のマッスルカーのように筋肉質かつアクティブな雰囲気が感じ取れる。フロントは先代よりノーズが低くなり、それによって迫力がありながらすっきりした印象だ。リアにはディフューザーが装着され、4cmのデュアルマフラーも備えられる。ただ他のマッスルカーと比べると柔和な印象を受け、この車が485psという強力なパワーを発揮するとは見た目だけでは到底考えられない。
インテリアは若干チープ感は否めないもののそれでこそブラヴァドの車だと言えよう。しかしバッファローより高額なバンシーよりも質感は高く、インテリアは殆どガントレットと共通で大部分がプラスチックを占めるものの所々でレザーが用いられている。ステアリングには各種コントローラーが装備され、パドルシフトも備えられているなど装備もマイナーチェンジ前より大きく改善されている。
着座位置がマッスルカーの中でもおそらく最も高いがその高さがまた絶妙であり、乗り降りのしやすさに加え、低くなったノーズフードも相まって抜群に運転がしやすい。シートもしっかりとしたホールド性があり、座り心地も非常に良い。
座席に座り自然吸気6.4L OHVエンジンを始動させる。エンジンから直接届く音と周囲の壁から反射する音の二重奏を聞くだけで気持ちが昂る。ブラヴァド伝統のV8エンジンは今も昔も変わらず私たちをあっという間に子供にさせるのだ。
運転モードをストリートにセッティングして走り出す。走り出しは意外と落ち着いており、そこまでのパワーは感じられない。しかし車重が2000kg近くあるということを鑑みるとスムーズな走り出しで重さは感じられない。シフトの感覚も滑らかで4~6速を行き来する。落ち着いた走りに若干物足りなさを感じつつ2kmほど走らせると、少々空いた道幅のある道に出た。ここでアクセルを少し踏み込んでみる。
...驚いた。アクセルペダルをほんの少し踏み込むだけで隠れていた本性が垣間見える。獣の咆哮のようなV8エンジンの唸りとともに一気に加速し、私の体はたちまちシートに押さえつけられてしまった。65.7kgf・mものトルクはもはや官能的であり、私たちをパワーの沼へ誘う。これまでに乗ってきたこの車よりパワーの少ないクルマ達がまるで遊園地の幼児用カートだったのではないかと感じるほどであった。
乗り心地は先代と比べると大きく改善されており、程よくセッティングされている。スポーツモードにすると接地感が増し、地面を踏みしめるようにして走る。ただ流石にトラックモードでは一般道を流すのには硬すぎる。
今モデルから新たに設定された8速ATはこのエンジンと抜群の相性を見せ、特にトラックモードではしっかり高回転まで回ってくれる。
高速でのクルージング性は素晴らしく、日本車やドイツ車の大型セダンに匹敵するほどであると思う。それでいて踏み込むとおどろおどろしいエキゾースト音がダイレクトに私の脳髄に響いてくる。この強力な暴れ牛を押さえつけるブレーキもまた強力で6ピストンキャリパーのブレーキはズドンとした感覚とともにしっかり止まってくれる。
さて、今からはマッスルカーらしいお遊びをしてみようと思う。
ブレイン郡のサンディー海岸飛行場に到着した私はセッティングをトラックモードにしてアクセルとブレーキを同時に踏む。最大回転まで回ったところでブレーキを離す。
その瞬間フロントタイヤが浮き上がる。これこそがマッスルカーの古来よりの楽しみ方。ウィリーだ。
最大3フィートもフロントを浮かせて走らせられる車はこの世にはほとんどないであろう。そこからの加速も凄まじいものであり、アクセルを踏み込むたび私の顔は変形した。
滑走路の端に近づいたところで一気にブレーキをかけて止まる。私はまるで新しいおもちゃを開封したばかりの子供のように楽しみ、体が疲弊するころにはすっかり夕方になってしまっていた。
これほどまでに楽しめる車にも関わらず、ブラヴァドが定めたプライスタグはなんと38,125ドルであり、4万ドル以下で購入できるのだ。この価格帯はカリン・アステロープやウィーニー・イッシーとほぼ同じである。ロスサントス市内でよく見かけるそれらの車とV8エンジン搭載のハイパワーセダンが同じ価格で買えるということに驚きを禁じ得ない。なぜこちらを買わないのか甚だ疑問である。
しかし、このバッファローにある大きな欠点がある。それはガントレットには設定されているヘルファイヤが設定されていないということだ。ただその欠点もまもなく解消されるであろう。地獄の炎はもう既にすぐそこまで来ている。