インポンテが放った、若者に向けた最後の矢。 2006年式 インポンテ DF8-90
インポンテ DF8-90
インポンテ。この名前にももはや懐かしさすら感じてしまう人も少なくは無いのではないだろうか。1926年に創立され、デクラスやマンモスと北米最大の自動車グループを構成しており、若者向けの安価でスポーティーな車を製造していた世界的にも有名なメーカーだった。しかし2008年から始まった不況によるデクラスの経営不振によって、2010年をもってマンモス社の自動車部門とともに消滅してしまった。
インポンテ社の車と言えば廉価で格好よく、スポーティー。若者向けのメーカーとして位置づけられ、1970年代には名車であるフェニックスという車を発表した。
フェニックスはそのスポーティーな流線形のフォルムが他のマッスルカーとは一線を画しており、ヨーロピアンテイストとアメリカらしい無骨さが織り交じったこの車は空前の大ヒットを飛ばし、インポンテの名を世界に轟かせた。
インポンテの勢いは止まらず、ナイトシェード、デュークスなどのヒット車を輩出。しかしその中でもフェニックスは別格で、モデル末期でもコンスタントに売れ続けた。
そんなフェニックスの後継となったルイナーはとある特撮ドラマにおいて改造したモデルが登場。世界中で人気を博し、インポンテというメーカーの発展に大きく貢献した。
世界的ヒットを飛ばしたルイナーであったが、モデルチェンジ後は日本車に購買層である廉価でスポーティーな車を求める若者を奪われただけでなく、経営不振による性能低下、没個性的なデザインと、かつての栄光が感じられないものとなってしまった。
そんなルイナーを廃止し、日本車に奪われた購買層を取り戻すために開発、販売がなされたのが今回紹介する、DF8-90である。
スペック
全長:4800mm
全幅:1800mm
全高:1450mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1500kg
エンジン:3.9L V6
排気量:3900cc
最高出力:240hp/5500rpm
最大トルク:325N・m/1500‐5500rpm
トランスミッション:6MT
流線形のフォルムはこの車が正当なフェニックスの後継車であることを示しており、同年代の国産車の中でも最も近代的で洗練されたデザインと言える。ホイールベースが長いため、こういったデザインができるのだろう。4ドアだがルーフの低いクーペスタイルはスポーティーさを醸し出す。
しかし内装はいくら廉価ブランドの車両とはいえ非常に安っぽく粗末だ。対抗となる同価格帯の日本車より低水準かつ低い質感。日本車に勝てそうなポイントで勝つことができていないのは非常に残念だ。低いルーフラインはスタイリングとしては素晴らしいものの実用性はかなり低く、狭苦しさを覚える。特に後部座席では頭がルーフに当たりそうになる。これでは日本車に勝つことはできないだろう。
エンジンはデクラス製3.9L V6エンジン。240馬力を誇りまさにアメリカンマッスルクーペの伝統的エンジンだ。しかしながら、デクラス・プレミアやメリットと同じエンジンであり、コスト削減を図ったものなのだろうと考えられる。さて、このエンジンはどのような楽しみを私たちに与えてくれるのだろうか。フェニックスやルイナーのような少々荒くとも心の弾む走りをしてくれるのだろうか。
エンジンを始動すると古き良きV6サウンドが響き、走り出すとV6のしっかりとしたパワーが感じられる。しかし、走り出して10分後、私は様々な問題点に気づいた。
まずサスペンションがあまりに硬すぎる。市街地区間、特にロスサントス西部の舗装状態の悪いところでは凄まじい衝撃が座席を伝い私の腰に響く。スポーティーなセッティングがなされているからとはいえ、この車を2時間運転すると18歳でも椎間板ヘルニア患者になるだろう。
次にシフトのセッティングだ。私は70年代のトラックでも運転しているのか、と錯覚してしまうほどシフトが固い。特に1速から2速へのギアチェンジが大変で、ゴリラ並みの腕力がなければスムーズにギアチェンジできないだろう。
他にも風切り音はV6エンジンのサウンドすらかき消してしまうほどうるさく、小回りができないため、ジョービルトと同じように回らなければならない。
ただ高速に入った途端、それらの欠点はすべて打ち消された。ガツンと来る強烈な加速とアメリカンマッスル仕込みのV6エンジンの生み出すパワーは、これまでのすべてを忘れさせるほどの爽快感をもたらしてくれる。インポンテ伝統の少々荒いが心の弾む走りはこの車にも受け継がれていた。日本車にはないこの国産車独特の走りをカリン・アステロープより安い価格で手に入れられるということに驚きを禁じ得ない。
国産車といえば、燃費の悪さが日本車と比較した際の大きな欠点として挙げられるが、DF8-90の燃費はリッター18kmを誇り、これはインポンテ社史上最高の燃費だ。
これまで乗った国産車の中でもトップクラスで、試乗中の給油もほとんど必要がなかった。この経済性の良さは、収入の少ない学生にとっては非常にありがたいのではないだろうか。
この車はまさにインポンテが若者に向けて放った最後の矢だった。矢のように鋭い速さと格好いいフォルム、そして手ごろな価格はまさに若者のハートを射止めるには十分すぎるほどだった。しかしDF8-90はインポンテ社の想定していた販売台数を下回り、結局デクラス社の経営不振によりインポンテ社は消滅してしまう。
この車の顧客層を奪ったのは、ライバルとしていた日本車でなく、皮肉にも同じ国産車であるヴァピッド社のドミネーターだった。
放たれたインポンテの輝かしい歴史はこの車とともに潰え、二度と復活することは無い。放たれた矢は若者の心を射止めることなく、インポンテというブランドごと、我々が一生届かないところまで飛んで行ってしまったのだ。